美術手帖 2017年1月号「Editor's note」
『美術手帖』2017年1月号(P8〜9)ライゾマティクス particles 2011 写真提供=山口情報芸術センター 

美術手帖 2017年1月号「Editor's note」

2016年12月17日発売の「美術手帖 2017年1月号」より、編集長の「Editor's note」をお届けします。


 今号は「ライゾマティクス」特集をお届けします。ライゾマティクス──最近では、リオ・オリンピック閉会式で話題となった東京2020大会のプレゼンテーションの技術演出、またPerfumeのライヴ演出の技術担当として、多くの人にその名が知られるようになった。しかし、彼らの活動をひとことで表現するのは実は容易ではない。

 メディア・アーティストとしての制作・発表を軸としながら、そこで開発したテクノロジーやアイデアが広告やエンターテインメントといった規模や予算の大きなビジネスとなって落とし込まれ、社会を変えていく影響力を持つ。これはそれなりの説明ではあるが、これでもまだライゾマティクスの活動をとりこぼしてしまうように思う。そこで、メディア・アートの歴史的文脈と現在のメディアやテクノロジーをめぐる状況の中から、ライゾマティクスの特異性と普遍性を位置づけてみたいというのが、本特集の企図である。

 詳細は特集を読んでいただきたいが、気づかされたところをふたつほど挙げておきたい。ひとつは、かつてのアートとテクノロジーが融合した表現の多くは、アーティストとエンジニアの協働で生み出されていたが、ライゾマティクスでは彼らが自身を"フルスタック"集団と言っているように、すべてのスペシャリストが社内(ライゾマティクスは株式会社)に揃っており、アーティスト自らアイデアから実装までを実現してしまうところに強味がある。

 もうひとつは、設立から10年を迎えた2016年に三つの部門に分かれ、そのひとつに「リサーチ」という名前を冠したことからもうかがえるように、ライゾマティクスのアイデンティティーといってもよい「研究開発」の重視だろう。そしてここに、メディア・アートの文脈で開発して、ビジネスで回収するというモデルではなく、広告やエンターテインメントでの仕事の中に「研究開発」の要素を組み込みながら、誰も見たことのない新しい表現の領野に切り込んでいくことのできる秘密があるように思う。

 そして、このことは現代の社会におけるメディア・アートやテクノロジーに対する期待と影響力、それに対する対価といったかたちで見える社会構造の変化の反映でもあるのかもしれない。だとするなら、これからのライゾマティクスの活動から目を離せないのは言うまでもない。

2016.12
編集長 岩渕貞哉
編集:美術出版社編集部
出版社:美術出版社
判型:A5判
刊行:2017年12月17日
価格:1728円(税込)
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