豊島にアンリ・サラの新作インスタレーション展示がオープン
《オール・オブ・ア・トレンブル(海の壁)》。土壁に設置されたオルゴールから、時おりにメロディーが流れる。土壁にはオルゴールが歩んできたような跡が残されている 撮影=大林直治 写真提供=ベネッセホールディングス

豊島にアンリ・サラの新作インスタレーション展示がオープン

「瀬戸内国際芸術祭2016」の舞台となった瀬戸内海の豊島に、恒久展示としてアルバニア出身のアーティスト、アンリ・サラのインスタレーション《ALL OF A TREMBLE》が今秋オープンした。海辺の日本家屋を丸ごと使い、重なり合う音と映像が複層的な空間を織りなす本作を紹介する。


海辺の家屋が奏でるイメージと音の協奏 アンリ・サラの恒久展示がオープン

 この秋、豊島にまたひとつ美しい恒久展示が生み出された。「瀬戸内国際芸術祭2016」の秋会期に合わせ、豊島シーウォールハウスが開館し、アルバニア出身のアーティスト、アンリ・サラのインスタレーションが設置された。

 タイトルは《ALL OF A TREMBLE(オール・オブ・ア・トレンブル)》。かつて模様を言語に変換する機械が発明された際、その機械が最初に発した言葉であり、「ぞくぞくする」「ふるえる」という意味を持つ。その名のとおり穏やかな瀬戸内海を目前に佇む家屋全体が、土地と響きながら、絡み合うイメージと音を奏でているかのようだ。

 庭から鑑賞できる縁側と室内を隔てるように設置された土壁には、まるでオルゴールのような鉄盤をまとった木製の筒状楽器が設置され、自動回転でかわいらしい音色が流れる。これは1800年頃のオランダで用いられていた壁紙に模様を付けるための道具で、その名残を感じさせるかのように、土壁には文様が刻まれている。オルゴールは壁に刻まれた文様を音に転換しているかのようでありながら、楽器自体が文様を壁に刻みつけているようにも見え、この西洋の道具から響く音色は、なぜかアジアのどこかで聞くような東洋的な響きを持つ。

 サラはまだ学生だった頃に、自身の母を取材するとともに自らの出自と政治的な背景を持つ映像作品《インテルビスタ》(1998)を制作したことで注目され、以降は映像、音、空間によりイメージが重層的に絡み合う展示空間を提示する技量の高さから、各国で賞賛を集めてきた。そして、初期作から一貫して示されているサラの関心が、ふたつの異なるものの出会いによる同一性と相違である。

 2013年のヴェネチア・ビエンナーレには、戦争で右手を失ったふたりのピアニストが左手のみで共演する映像作品《ラベル ラベル》を発表。大写しにされたピアノを弾くふたつの左手は、同じ楽曲を奏でながらも、各所でテンポにズレが生じている。演奏者の経てきた経験とともに、両者による音の共鳴とずれを目前にした際、観客は言語ではすくい取りようのないイメージの存在に気づかされる。

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《オール・オブ・ア・トレンブル》のメイン作品《より長い嘆き(フィルム「長い嘆き」に併せたジャメル・ムーンドックのサックス、アンドレ・ヴィダのサックス、小濱明人の尺八演奏)》。窓の外に見える瀬戸内海と呼応するような演出がなされている 撮影=大林直治 写真提供=ベネッセホールディングス

 日本家屋全体を作品化した豊島でのインスタレーションは約20分ごとのタームで、数か所から順に音と動きが現れる。メインとなる空間では映像作品《長い嘆き》が投写されている。これは05年に制作されたサックス奏者ジャメル・ムーンドックがベルリンのアパートの窓外で即興演奏する姿をとらえたものである。スクリーンは田の字型に仕切られた住居空間を斜めに横断するように設置され、4つのスピーカーに取り囲まれている。それぞれ音源が異なり、ひとつは映像と同様の演奏音、そのほかは、映像に登場するムーンドックの即興演奏を映像制作とは別の機会に収録した音源、香川県出身の尺八奏者小濱明人による即興演奏、異なるサックス奏者(アンドレ・ヴィダ)による即興演奏。聞こえてくるすべての音は、音同士の対話のように演出されており、そこには、人の息によって演奏される吹奏楽器を用いているという同一性と、奏者や楽器の違いによる対比がある。

 ほかにも、作中の随所でふたつの異なるものの出会いが秘められている。たとえば昭和の名残を色濃く残す長く空き家だった離島の木造家屋と、映像に映し出される欧州の近代的な空き家アパートと窓の外に映る都市の風景もそうだ。いくつもの同一性と対比のイメージが重なりあう様を、サラは「家そのものが人間の身体」のようだと表現していた。

 本作はベネッセ賞受賞を機に、3年の構想を経てようやく実現した。またもや豊島に世界から熱い視線が注がれることは間違いない。

友川綾子=文
『美術手帖』2016年12月号「INFORMATION」より)

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アンリ・サラ © Jutta Benzenberg

PROFILE
Anri Sala 1974年アルバニア共和国、ティラナ生まれ。現在ベルリン在住。アルバニアで文学士号(絵画)を取得後、フランスでビデオ制作や映画の監督手法を学ぶ。2001年に第49回ヴェネチア・ビエンナーレで若手作家賞受賞、13年同ビエンナーレでベネッセ賞受賞。主な展覧会に11年「1395 Days Without Red」(国立国際美術館、大阪ほか)、12年回顧展「アンリ・サラ Two Films」(ポンピドゥー・センター、パリほか)、14年「The Present Moment(in D)」(ドイツ、ハンス・デア・クンスト)など。

ALL OF A TREMBLE
香川県の豊島に公開されたアンリ・サラによるインスタレーション展示《ALL OF A TREMBLE(オール・オブ・ア・トレンブル)》。豊島シーウォールハウスと名づけられた、今は使われていない民家1棟すべてが作品となっている。キュレーションは三木あき子。サウンド編集はオリヴィエ・ゴワナール。公開日に関してはベネッセアートサイト直島のウェブサイトを参照。
URL:benesse-artsite.jp
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