変化し続けるマカオで、グローカルに息づくアートシーン
毎年12月に開催される「マカオ・ライト・フェスティバル」では、街中の各所でプロジェクションマッピングを楽しむことができ、カップルやファミリー、観光客で賑わう。写真は、世界遺産の聖パウロ天主堂跡

変化し続けるマカオで、グローカルに息づくアートシーン

アジアの経済成長に併走するように諸国随一のカジノの街として発展し、近隣諸国から富豪を集めてきたマカオ。だが近年では、そのイメージを脱却しようと新たな観光施策に取り組んでいる。舵を切った国策は、同エリアのアートシーンにどんな影響を与えているのか。現地に取材したレポートを届ける。


変化しつづけるマカオのいま

 中国の特別行政区・マカオは、19世紀後半から20世紀にかけてのポルトガル統治時代に建造された教会など豊富な世界遺産と、カジノを含むエンターテインメントで各地から多くの観光客を惹きつける街だ。2002年にカジノ経営権を独占していた実業家、スタンレー・ホーの時代が終わり、香港やアメリカの企業がマカオでのカジノ経営に乗り出したことから、同国の様相は様変わりした。ショッピングモール、スパ、カジノ、ホテルなどを敷地内に抱え持つ大型の統合型リゾート(IR)が次々と新設。2017年には、フェリーが主な交通手段だった香港〜マカオ間をつなぐ巨大な橋の完成が、2018年には、急逝した建築家、ザハ・ハディドのデザインしたホテルのオープンが、それぞれ予定されている。

 また、現在のマカオは中国本土だけでなく香港、韓国、シンガポール、台湾、日本などアジア諸国からの観光客を誘致しようと、カジノなどに起因する「男性向けエンターテインメント・リゾート」というイメージの脱却を試みている。長期滞在するファミリー向けのミニキッチンを備えたホテルを新設するなど、女性やファミリー向けのリゾートへと大きく方向性をかえた。

DSC_0344_s.jpg
カジノ、ショッピングモール、アミューズメント施設、スパなどを敷地内に備えた統合型リゾートが次々にオープンしているマカオ

マカオのアートシーンを一望する取り組み

 こうした変化は、マカオのアートシーンの振興につながっている。既存文化施設には、女性やファミリー向けの観光コンテンツとして改めて光が当てられ、新たなアートイベントが開催。結果として、地元アーティストの活動の後押しにつながった。マカオ最大の美術館、マカオ芸術博物館では、現地のアーティストを紹介することでアートシーンのトレンドを示そうと試みられている。また、ポルトガル風の建築群が並ぶラザロ地区にある「アルベルグSCM」では、コンテンポラリー・アートのギャラリーが複数入居し、マカオの現代作家の活動を盛り上げている。「マカオ・アート・フェスティバル」は、演劇、ダンス、絵画など様々なジャンルのアーティストが参加し、毎年1か月間、開催されているイベントだ。この国らしく、楽しさや煌びやかさを優先させたエンターテインメント色の強い内容となっている。

 いっぽうで2015年12月に開催されたアートイベントの「Art MO」は、観光の視点からマカオのアートやカルチャー・シーンをつなぎ、「見える化」する試みだ。「マカオ・チェンバー・オブ・コマース・オブ・カルチャー・アンド・アート・インダストリー」が主催している。

 具体的な内容としては、マカオ半島に点在する文化芸術施設を回遊しやすくするためにオリジナルの地図を作成し、期間中に無料バスで運行するというものだ。多くの観光客が移動にタクシーを使用し、目的地にダイレクトに移動してしまうマカオでは、「まだ知られていない場所」と観光客が出会うことは難しい。そこで、Art MOでは著名な文化施設から一般の観光ガイドでは紹介されないオルタナティブ・スペース、若手クリエイターの運営する小さなアートスペースまでを同時にピックアップして紹介しているのだ。回遊地には、聖ポール天主堂跡などの世界遺産やマカオ・ミュージアム・オブ・アート、4階建てのビルにスタジオ、展示スペース、カフェなどを備えた「マカオ・デザインセンター」、倉庫を改修したギャラリーの「アート・フォー・オール・ソサエティー」などが含まれ、マカオのアートスポットを満喫することができる。

bt_macau3.jpg
Art MOのスポットのひとつ、マカオ・タワーのロビー。若手作家の作品展示が行われていた

 Art MOは、アートやカルチャーに感度の高い観光客にマカオのクリエイティブシーンを提示するだけでなく、地元の若者のアートやデザインに対する関心を高めることにも貢献している。近年のカフェブームやクラフト・マーケットの隆盛などは、その一端ともいえるだろう。マカオ政府が観光誘致のために仕掛ける施策が、今後どのように広がっていくのか。注目していきたい。

bt_macau4.jpg
Art MOの回遊地のひとつとして名を連ねるマカオ・デザインセンター。地上4階、地下1階の施設に、スタジオ、カフェ、書店、ショップなどを備え、展覧会やイベントが開催されている。マカオと海外のデザインシーンをつなぐ複合施設になっている
bt_macau5.jpg
多くの観光客でにぎわう世界遺産、聖ポール天主堂の近くにある「フルゲント・アート・ギャラリー」。Art MOの回遊地のひとつになっている

気概を見せるオルタナティブ・アートスペース

 Art MOでも紹介されているアートスポットのひとつに、コンテンポラリー・アートに主軸を置いて活動するオルタナティブ・アートスペース、「OX ウェアハウス」がある。ネオンの眩しいカジノ街からは少し離れ、人々の生活が垣間見えるマカオ半島の北部、ファティマ堂区に、2002年にオープンした。

bt_macau_ox.jpg
OX ウェアハウスの外観

 「OX ウェアハウス(牛房倉庫)」という名称は、施設がもともと牛舎だったことに由来する。牛飼いが暮らしていた母屋の2階と隣接する牛舎を展示スペースとして改修しており、陶芸教室や子供のワークショップのためのスペース、カフェを併設する。以前は、非営利団体「オールド・レディーズ・ハウス・アートスペース」として別の場所で活動していたが、政府の援助を受けて2002年に設立。その活動は、地域住民に広く知られている。

 OX ウェアハウスは、「マカオのアートシーンに実験的なプラットフォームを提供する」という理念を掲げ、現代美術展を定期的に開催している。同施設のディレクターであり、展覧会を数多く企画しているマカオ出身のキュレーター兼アーティスト、ビアンカ・レイは、「マカオではコンテンポラリー・アートに親しみを感じ、支援しようと考える人はまだ少ない。地元アーティストを支援することに限らず、多くの人に理解してもらえるように活動しています」と話す。

bt_macau7.jpg
OXウェアハウスのディレクター、ビアンカ・レイ

 ビアンカは、ロンドンのミドルセックス大学でファインアートの修士課程を修了。インディペンデントなアートシーンを生み出し育てていくことを、志してきた。「コンテンポラリー・アートを理解してもらう土壌をつくっていきたい。マカオだけではなく、アジアで活動する現代美術作家同士のネットワークを構築したい」と語る言葉どおり、OX ウェアハウスが紹介してきた作家には、マカオのみならず中国各地、香港、台湾、韓国、日本のアーティストたちが名を連ねる。表現も絵画、インスタレーション、パフォーミングアーツ、映像、音楽など実に多彩。ジャンルにとらわれず、勢いのあるものを積極的に取り上げているのが見て取れる。

bt_macau6.jpg
OX ウェアハウスには陶芸教室用の専門工房があり、アーティストが制作に利用している

 OX ウェアハウスは、最新のアートシーンを見せていこうという気概を持ち、観光客だけでなく地元の人々に対しても存在感を示すことに成功している、数少ないギャラリーだ。地元作家の発掘や育成に取り組み、アジア圏との接続を試みる同施設は、マカオのアートシーンにおける今後の成長の核となるだろ。

Art MO
住所:20 Floor AIA Tower, Av. De Commercial 301, Macao
電話番号:+853-6571-3347
URL:art-mo.com
牛房倉庫 OXウェアハウス
住所:No Cruzamento da Av. do Coronel Mesquita com a Av. Almirante Lacerda Macau
電話番号:+853-2853-0026
開館時間:12:00~19:00
休館日:火休
URL:oxwarehouse.blogspot.jp
次の10件を表示