映像美で紡ぐ自然への畏敬の念 金子雅和監督『アルビノの木』
映画『アルビノの木』より

映像美で紡ぐ自然への畏敬の念 金子雅和監督『アルビノの木』

現在、金子雅和監督の2作目となる長編映画『アルビノの木』がテアトル新宿にて上映されている(7月29日まで)。長編デビュー作『すみれ人形』(2007年)の幻想的な映像美で高い評価を得た金子監督。本作でも、圧倒的な自然美を背景に、害獣駆除の問題をひとつの軸として、神獣とひとりの猟師の物語を、現代における神話のような語り口で紡ぎ出している。


 今年2月にゆうばり国際ファンタスティック映画祭のフォアキャスト部門で初上映された『アルビノの木』は、金子雅和監督の2作目の長編映画。構想8年、自然と人間社会の間に生じる摩擦を、鮮やかな映像美で現代の神話のように描き出した本作は、同年4月の北京国際映画祭の正式上映作品にも選ばれた。

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映画『アルビノの木』より

 害獣駆除の仕事に従事する主人公・ユク(松岡龍平)は、母の医療費を稼ぐため、「秘密厳守」の高額報酬の依頼を引き受ける。駆除の対象は、山間の村人が崇める真っ白な鹿、「白鹿様」。良心の呵責にさいなまれながらも、ユクは猟銃を手に山へ向かう......。近年、金子監督が発表してきた短編映画『水の足跡』や『逢瀬』(ともに2013年)の神秘的な世界感が集約されたストーリーだ。

 現代社会が忘れかけている自然への畏敬の念。映画作品を通じて警鐘を鳴らし続ける金子監督に、各界からは共感や賞賛の声が寄せられている。

「アルビノの木」は、畏れという人間にとって最も大事な良心の扉を、おぼつかない手で恐る恐るノックする誠実な映画だと思います。このおぼつかなさ、心許なさこそが、現代の誠実でしょう。わかっているつもりになって声高に正しさを主張するよりも、本当のところはわからないということを自覚したうえで、それでもやはりおかしいのではないかと考え続ける姿勢からしか、自分自身も、その延長線上にある世界も、変わっていかないと思います。 佐伯剛(『風の旅人』編集長)
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映画『アルビノの木』より

 物語の舞台となる架空の山「依木山」は、金子監督自身が日本各地を歩き回って選定した複数のロケ地によって構成されている。まるで時が止まったかのような山間の限界集落、神獣の住み処へ続く川底の赤い水流、そしてたどり着く威厳に満ちた深山の滝。自然の崇高さとともに、聖域に踏み込んでいく主人公の高揚や逡巡を、色鮮やかな映像は雄弁に物語る。

 本作のキャストの一人である長谷川初範は、かつて夕張の映画祭で金子作品を目にし、その徹底した画づくりに惚れ込み、金子作品への出演に自ら名乗りを上げたという。完成した本作を観て、長谷川は金子監督の映像世界を「芸術至上主義」と評する。金子監督の過去作に出演したこともある画家の山口晃も次のようなコメントを寄せている。

あれは何だったのか、うまく言えないのですが、スクリーンの中で話が進んでゆくうち、突如映画でも物語でもない何者かがこちら側に現れる瞬間が幾度かあったのです。
無理に言葉にしてみれば、拙なさを怖れず既存の文法を放り出す様な時が、その瞬間であったのかと思われます。
それは、丁寧に映像を彫琢するうち、期せずして何か新しい型に達してしまったという風で、これ見よがしの感がなく、この映画独特の語り口になっていました。 山口晃(画家)

 本作が描くのは、「自然」と「人間」という単純な二項対立でも、明快な勧善懲悪の物語でもない。教訓と預言と、ある種の不可解を抱えた神話の中に、鑑賞者は何を見出せるだろうか。なお、テアトル新宿での上映期間中は、毎日上映終了後にトークイベントを開催している。ぜひ作品鑑賞後の余韻を、監督やさまざまなゲストの言葉とともに楽しんではいかがだろうか。

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映画『アルビノの木』より
映画『アルビノの木』
上映:2016年7月16日~7月29日 レイトショー(テアトル新宿)
監督・編集・撮影:金子雅和
出演:松岡龍平、東加奈子、福地祐介、増田修一朗、尾崎愛、細井学、松蔭浩之、松永麻里、山口智恵、山田キヌヲ、長谷川初範
製作:kinone
配給:マコトヤ
URL:http://www.albinonoki.com/

【上映後イベントスケジュール】
■7月23日(土) 畑中章宏氏(作家・民俗学者)×金子雅和監督
■7月24日(日) 金子雅和監督によるティーチ・イン
■7月25日(月) パルコキノシタ氏(漫画家・現代美術家)×金子雅和監督
■7月26日(火) 蔦哲一朗監督(映画『祖谷物語』)×金子雅和監督
■7月27日(水) 菊池健雄監督(映画『ディアーディアー』×金子雅和監督
■7月28日(木) 調整中
■7月29日(金)最終日 キャスト・金子雅和監督による舞台挨拶
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