詩人・園子温が紡ぐ未来のノスタルジア 映画『ひそひそ星』
映画『ひそひそ星』より © SION PRODUCTION

詩人・園子温が紡ぐ未来のノスタルジア 映画『ひそひそ星』

5月14日に公開となった映画『ひそひそ星』は、園子温が20代で書いた原作をもとに、全編モノクロームで撮られたSF作品だ。園が設立した映像制作会社「シオンプロダクション」での初の監督作品である本作が、2015年トロント国際映画祭にて最優秀アジア映画賞を受賞した。


 静まりかえった世界は嘆きや怒りを超えたあとに広がる。それは無機に向かう道のりか、有機の吹き返しを待っているのか。大きな災害と大きな失敗をくり返し、いま人類は宇宙に散り散りだ。30デシベル以上の音がたつと死ぬおそれがあるため、人びとは内緒話のようにして暮らす。だから"ひそひそ星"である。

 園子温は25年前にこれを構想していたという。パフォーマンス集団「東京ガガガ」で音と騒動によって街頭を微視的にあぶり出した時期に、この静寂と廃虚によって人類を巨視的にまなざすSF作品を思い描いていたことになる。モノクロームのロケ地には福島県の富岡町・南相馬・浪江町がえらばれ、するとこれは3.11の自然災害と3.12の原発事故をうけた園のフィルモグラフィーに連なる。『ヒミズ』が絶唱、『希望の国』が悲劇とすれば、『ひそひそ星』はリリカルな詩編だ。たしかに園は早くから詩人でもあった。

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映画『ひそひそ星』より © SION PRODUCTION

 園作品のなかで神楽坂恵の肉感性はつねに特権的な位置にあったが、本作では彼女だけが非人間のアンドロイドである。ひとりきりで惑星のあいだを数年スパンで移動する配達員だ。彼女が相対する距離と時間は、人間ひとりのスケールを超えた、風化の単位だろう。彼女が乗る宇宙船はまるで、頭が神社、胴体が屋形船、尾翼がロケット、中身が文化住宅であり、日本のノスタルジーをわざとらしく保管したかのような奇妙さがある。しかしこのなかには、水、火、電気、声、文字、記憶、天井と壁と床、きまったお酒とわずかなお洒落、生活の最小限が包まれているようにも見える。だからこそ、雑巾がけをとらえたパンが貴重に思える。だからこそ、彼女がスカートからツナギに着替える瞬間に現実が照り返される。

 だいじに運ばれる箱の中身は取るに足らないものばかりだ。それは宇宙ゴミと見分けがつかず、しかしすべての遺品がそうであるように、誰かに涙をこみ上げさせもする。いま人であることについて考察された影絵のような一編だ。

五所純子=文
『美術手帖』2016年6月号「INFORMATION」より)

映画『ひそひそ星』
監督・脚本・プロデュース:園子温
公開:5月14日より新宿シネマカリテ他
配給:日活
4月3日〜7月10日、園子温展「ひそひそ星」(ワタリウム美術館、東京)にて同作品の絵コンテやイメージ・インスタレーションなどを展示。
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