蓄積された人生の時間にふれる、ジャ・ジャンクー監督に聞く
『山河ノスタルジア』より © Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano

蓄積された人生の時間にふれる、ジャ・ジャンクー監督に聞く

ジャ・ジャンクー監督・脚本の映画『山河ノスタルジア』が、Bunkamuraル・シネマほか全国で4月23日より順次公開となる。ジャ・ジャンクー監督はこれまでに『長江哀歌』(2006)、『罪の手ざわり』(2013)などで「中国のいま」を映し出してきた。第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された本作は、変貌する世界と時代に翻弄され、離ればなれになった母と息子の関係と変わらない想いを、1999年から2025年まで過去・現在・未来と3つの時間を通して描いている。


 時に映画は、誰もが同じ経験をしていないにもかかわらず、何かしら、誰かの人生を共有するように、物語を紡いでいく。『山河ノスタルジア』でも、主人公タオを中心に登場人物たちの人生が、26年の歳月の中で過去、現在、未来と展開する。そこで驚かされるのは、時間があまりにも気付かない間に過ぎていくという実感だ。監督は次のように述べている。「今回制作する際に、時間の幅が必要だと思いました。人間の生活は瑣末なことの積み重ねで、時間が経ったあとで理解できることがあります。その流れをみせることができるのが、映画の利点なのです」。

 異なるスクリーンサイズで映しだされる時代の雰囲気に加え、ペット・ショップ・ボーイズ「Go West」などの流行歌や、劇中音楽を担当した半野喜弘による繊細な旋律も映画を構成する重要な要素となって、時代の流れを克明に浮かび上がらせる。「音楽は時代の記憶や物語に寄り添うものを用いています。半野さんは時代の象徴としてギターを使用した音楽を提案してくれました」。

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『山河ノスタルジア』より © Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano

 デビュー作『一瞬の夢』以来、故郷・山西省の汾陽(フェンヤン)を舞台に、急変する中国社会の現実をみつめてきたジャ監督。本作では、より人物の心情に焦点が当てられている。「社会の中で人がどのように動いていくのか、人の情緒や感情の推移を撮りたいと思いました。消費社会による人々の価値観の変化が個々人の人生の選択や決断に影響を及ぼしていると思ったからです。タオが離婚するとき、息子の未来のために身を引く決断をする。そのこと自体に私は驚くのです」。

 離れて暮らす息子と最後の時間となる鈍行列車の中で、「どうして早い特急に乗らないのか」と息子に問われ、少しでも長く一緒にいたいからだと答えるタオ。主人公の微細な心情が現れる印象的な場面である。「現代の問題として、生活の速度が異様に速くなり、人とのコミュニケーションの時間に変化をもたらしました。誰もが親しい人と一緒にいる時間を渇望しているにもかかわらず、実際にはその時間が短くなっている。現代社会の矛盾を映画では描いています」。

田坂博子(東京都写真美術館学芸員)=文
『美術手帖』2016年5月号「INFORMATION」より)

映画『山河ノスタルジア』
公開:2016年4月23日
監督・脚本:ジャ・ジャンクー
出演:チャオ・タオ、チャン・イー、リャン・ジンドン、ドン・ズージェン、シンヴィア・チャン
配給:ビターズ・エンド
URL:www.bitters.co.jp/sanga
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