無垢な視線から見える世界を描き出す、長編アニメ『父を探して』
『父を探して』より

無垢な視線から見える世界を描き出す、長編アニメ『父を探して』

ブラジルの新鋭アレ・アブレウ監督による長編アニメーション映画『父を探して』が、3月19日よりシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開されている。物語は出稼ぎに出た父を探すために未知の世界へと旅立つ少年が主人公。農村や国際都市などが手描きの手法で鮮やかに表現され、政治や経済、 環境といった現代社会の問題があぶり出されている。音楽はサンパウロを拠点とする音楽家のオリジナル曲で、温かい躍動感が映画を彩る。同作は、2016年の第88回アカデミー賞長編アニメーション部門に、南米の作品として初めてノミネートされた。


 真っ白い空間のなかを、赤い、ボーダーのシャツを着た少年が歩く。背景には様々な動植物が登場し、徐々に画面全体を 埋め尽くしていく。写実的な形態把握を無視してデフォルメされたこれらは、彩度の高い色彩によって描かれ、自身の存在を謳歌している。 少年はそのなかを走り出す。するとどうだろうか。動植物たちはそれまでの存在感を全く損なわぬまま、世界のなかに息づきはじめる。 少年の運動によって空間はねじれ、世界があらたな秩序を形成していく。部分と部分が共鳴し、躍動する。アニミスティックなうごめきが、そこにはある。

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『父を探して』より

 ロードムービー形式の叙述を採用することによって、アニメーションという媒体にそなわった、"世界を鋳直(いなお)す想像力"が解放される。少年の瞳に映る風景は、クレヨンや色鉛筆、コラージュなど、多種多様な技法によって描き出されていく。その奔流は先に触れた祝祭的なユートピアばかりではなく、社会的、政治的主題をも含んだ世界像へ再構成される。本作はアニメーションであるからこそ、このような清濁併せ持つ世界観を具現化することができた。なぜならそこでは、仮にカメラを向けるとすると否応なしに生じてしまう強固な鋳型=形態の三次元性にとらわれないからだ。

 白い紙の上の染みや、紙切れにすぎないそれらがかたちづくる画面は、少年の感性を説得的に可視化する。 しかしその視線は無垢であるがゆえに繊細で、心もとない。終盤、不意に垣間見えてしまう世界の姿は、それだけに衝撃的だ。そこから流れ込むクライマックス、主人公の境遇に観客は何を思うのか。簡略化された造形は、雄弁な無表情となって語りかけてくる。 私たちが映画のなかで少年と取り持った関係をいかようにも代入できるその記号性は、描線が持つ根本的な抽象性に他ならない。レイヤーを重ね、動画を何千枚も描くこととは異なる、アニメーションのもうひとつの可能性が、この結末には賭されている。

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『父を探して』より

 配給はアニメーション研究者、土居伸彰が代表を務めるニューディアー。設立後、本作が初の配給作品となる。ワールドワイドなシーンとのシンクロを図ろうとする同社の今後にも、目が離せない。

【特別公開】『父を探して』メイキング
https://youtu.be/X2fByPEiR7k

塚田優=文

映画『父を探して』
監督:アレ・アブレウ
配給:ニューディアー
公開:2016年3月19日以降 順次全国公開
上映館:シアター・イメージフォーラム(東京)、シネ・リーブル梅田(大阪)など
URL:http://newdeer.net/sagashite/
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