子供も大人も同じ器で楽しめる、「やさしい器」作家インタビュー
奈良県吉野郡川上村で活躍する陶芸家、鈴木雄一郎さんの「やさしい器」シリーズ。その優しい色合いも人気の秘密

子供も大人も同じ器で楽しめる、「やさしい器」作家インタビュー

「子供にも、ご高齢の方にも、手の少し不自由な方にも使いやすい器」と聞いて、どんな器をイメージしますか? 今回紹介するのは、奈良県吉野郡川上村で制作をしている陶芸家・鈴木雄一郎さんの「やさしい器」シリーズ。それは身近な人を思いやる優しい気持ちと、食卓を楽しみたいという強い思いから生まれた、驚くほどシンプルで美しい器です。さて、どうしてこの器はいろんな人にとって使いやすく、食卓に並ぶ姿が愛おしいのでしょう? さっそく鈴木雄一郎さんに話を聞きました。


みんなが同じ器を使える、という幸せについて

 普段は意識もしないことが、自分の置かれる状況によって突如「困難なこと」に変わってしまうことがあります。あるいは「子供だから」「高齢だから」という理由で、使えるものを制限されてしまうことがあります。

 たとえば病院での食事や学校の給食には、アルミやプラスチックの食器がよく使われます。それは落としても簡単には壊れませんし、汚れが落ちやすく、軽くて誰が扱っても「安心」だからです。それは合理的な選択だと思います。ですが、それは不自由を抱えている人や子供、ご老人のお世話をする人々にとっての勝手の良さであって、残念ながら使う当人たちにとっての心地よさとは無関係です。

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病院食や学校給食では利便性の面からプラスチックの器などが使用される
出典:aliexpress.com http://www.aliexpress.com/price/restaurants-supplies_price.html

 様々な人が生活する学校や病院などの食事では困難だとしても、家族で食卓を囲む時に、ひとりだけが他の人と違う簡易なお皿で食事をとることになったら、ちょっと淋しい気がします。子供だって、器に工夫があれば、大人と同じ食器で上手に食事をとることもできるかもしれません。

 今回は「家族みんな同じ器で食事をとれることは、食事以上に強力な心の栄養になる」ということを教えてくれる、奈良県川上村の陶芸家・鈴木雄一郎さんにインタビューしました。

思いやる気持ちから生まれた「やさしい器」

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陶芸家・鈴木雄一郎さん。川上村の「匠の聚(たくみのむら)」に構えた鈴木夫婦のアトリエで

──鈴木さんの「やさしい器」シリーズはなにをきっかけに生まれたのでしょうか?

 今から5年前になりますが、同じく陶芸家である妻が脳の病気により手から足まで片麻痺になった時期が長く続いたんです。利き腕の方には麻痺がありませんでしたが、それでも入院した当初は軽くて落ちても割れないものがよいとプラスチックのマグカップを渡していました。

 ただ、病院では毎日の食事の器もプラスチック製だったので、「せめてマグカップだけでも」と自分がつくった器を持っていったんです。それでお茶を飲んだ妻が「あぁ、この器で飲んだら美味しいわぁ!」と言ってくれたことをよく覚えています。心から嬉しそうな表情をしたんですよ、やっぱり器が持つ力はすごい、とこの出来事で再確認できました。

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ともに陶芸家である鈴木さん夫婦。匠ののアトリエにて

 妻がリハビリの病院に移ってからは、道具がうまく使えない方にもたくさん出会いました。
退院後しばらくしてから、入院中に使っていたマグカップの話になり、器の魅力を語り合ううちにイメージが膨らんで、「道具をうまく使えない人にも喜んでもらえる器をつくってみよう!」と、お箸が持てなくても掬って食べられる器をつくり出したのが「やさしい器」のはじまりです。

──とてもシンプルなデザインなので、最初は機能として掬いやすさに特化されていることに気が付きませんでした。

 パッと見て、いかにも不自由な方のためにデザインしているとわかられるのは嫌だったんです。その食器を使うことで不自由さをさらに意識させることになりますし、手先が不自由な人もそうじゃない人も同じように使えるシンプルなものを、と考えました。

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子供でも上手に救い上げることができる「やさしい器」。サイズも様々な展開がある

──いかにもバリアフリーというデザインではなく、さりげないユニバーサルデザインが施されていることに感動しました。「やさしい器」の食べ物の掬いやすさはどうやって実現されたのでしょうか?

 「やさしい器」の代表的なアイテムでは、器の口縁の下を内側に入れ込むことでスプーンで掬いやすく、こぼしにくい構造にしています。また、どれもリムがある形ですのでしっかりと手を添えやすいのです。

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写真手前:鈴木雄一郎さんの「やさしい器」シリーズ。リムがあることで持ちやすく、掬いやすい
写真奥:妻の鈴木智子さんの陶器は凛としたフォルムが清々しい

 言われないとわからないほどのちょっとした工夫なのですが、こうすることで子供から大人まで、様々な人たちにとって食事をとりやすくなります。

──鈴木さんのそういったデザイン面での観点は、大学時代に陶芸ではなくデザインを専攻されていたことが関係しているのでは?

 そうですね。陶芸の道を突き詰めていくなかで、デザインを学んでいた大学時代の気付きは重要です。大学時代はデザインの勉強よりも自分なりに様々な表現で作品づくりに取り組み、素材をいじり、試し続けた4年間でした。

 ただ、ひとつひとつ作品をカタチにできても、どうも自分が取り組んでいる表現に実感が湧かず、モヤモヤしていたんです。その頃に自分の思いを形にするには発想力を活かすための知識・技量・素材そのものの力が必要だと痛感しました。

──陶芸を始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

 たまたまテレビで陶芸の番組がやっていて、電動轆轤(ろくろ)の上の土の塊が気持ちよく伸び、自由に形が変化していき器になっていく様子を観て「あっ、これ触りたい」という純粋な気持ちが湧いたのが始まりです。ただ、そのときは「土を知りたい!」をいう思いが強く、窯元で1年くらい学んでみようくらいの気楽な気持ちでした。

 それがいざ身を置いてみると形をつくることさえままならず、土のこと、釉薬のこと、窯のこと、そのほか何から何まで知らないことばかり。今まで自分は広く浅く様々な素材を触っていただけで、ほとんどを学べていなかったことに気付いたんです。

 同時に、陶芸に対する「あぁ、これは一筋縄ではいかないな」という思いと、イメージするところから焼き上げまで一貫して関われる楽しさにも気付き、陶芸の道を突き詰めていきたいと思いました。

芸術家が集う「匠の聚(たくみのむら)」での優しいインスピレーションに触れる生活

 鈴木さん夫婦が生活し作陶しているのは、奈良県吉野郡川上村にある「匠の聚(たくみのむら)」と呼ばれるユニークな施設です。様々な作家が、この森の中のアトリエ兼住居に定住し、創作活動を行っています。川上村は吉野川の水源に恵まれ、吉野杉の産地でもある雄大な自然のなかに生きる村。もともと都会で育った鈴木さん夫婦に、村での創作活動について聞いています。

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匠の聚(たくみのむら)の様子。ここに現在陶芸・日本画・彫刻・木工・イラストレーターなど8組の作家が住まい、創作活動をしている

──「匠の聚」に移住したきっかけについて教えてください。

 結婚当初から将来は独立して陶芸家として生きていきたい、と妻と話をしていたんです。そんななかで偶然その年の新聞の記事で芸術家が集う「匠の聚」への入居募集を見つけました。応募してみたところ、嬉しいことに選んでいただいたことがはじまりです。

──住み慣れた都会生活からの川上村への移住は、ちょっと思い切りが必要そうに思います。

 夫婦ともに街で生まれ育ちましたので、その便利さも良く知っています。街にあるものがここにはないです。でも街にないものがここにある、と考えてみると暮らしや生き方も変わってくると思います。

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静かな山中のこのアトリエには、近隣の美術大学の学生や地域の住人などが気軽に訪れる開かれた場所でもある

 はじめは環境の変化に伴う様々な不安がありましたが、当時は子供もおらず夫婦ともに20代、妻の「きっとなんとかなるよ」の言葉で心の不安が希望に変わり、また創作の場を与えてもらえる喜びも大きく、移住を決めました。

 都会と川上村での生活のどちらが優れてるという比較はできないです。それぞれのスタイルに合った暮らし方を考えてみることが大切だと今は思っています。

──匠の聚での作陶生活は鈴木さんにどんな変化をもたらしたのでしょう?

 匠の聚にきてから17年が経ちますが、ここでの暮らしから得た「心の成長」はじっくりと器の形に現れてきていると感じています。

 春、新緑に期待を膨らませ、夏、ヒグラシの声に始まりと終わりを感じ、秋の散歩で実りを見つけ、冬、静かに力を蓄える。そんな風に1年1年を過ごして行くうちに、時間に追われ自分を見失うことが減りました。

 「今を大切に感じられる心」が自分の中に育ったことがここに来てからの大きな変化だと思います。「やさしい器」シリーズが生まれた背景にも、自分自身のそういった変化があります。

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鈴木さんの目に映る、川上村の四季の移ろい
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柔らかい陽の当たる縁側で。ここに座布団をひいて娘さんたちと一緒にお茶を飲むことも。 

器が繋ぐ、幸福な食卓の風景

──器は食事の必需品ですが、食卓の「楽しみ」としての器についてどうお考えですか?

 食卓は、お料理を食べたりお茶をするとき、友人や家族とお話をするとき、しずかにひとりで過ごすときなどそのときどきで姿を変えますよね。使う器もそのシチュエーションや、気分、一緒に食卓を囲む人の違いによると思います。

 食卓での時間はひとりの時でも多くを囲んでも、心が和らぐ時間です。その分だけ、お気に入りの器があれば使う喜びや楽しみも大きくなるのではないでしょうか。

──そういった寛ぎの食卓をつくりだしているのは、温かみのある器に盛られた食事なのかもしれません。「やさしい器」は、その温かさを食卓を囲む人全てがシェアできるような器だと感じました。

 そうですね。私のなかの制作への一つひとつのこだわりが、少し手が不自由な方や小さな子供が器を使う喜びとなり、前を向いて進めるような自信につながれば嬉しいです。

 すべての人に使いやすいと感じてもらう器をつくるのは難しいかもしれません。ですが、身近な人たちを勇気づけることができて、その輪が広がっていくことで、私の制作も意味のあるものになるのではと感じています。

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家族みんなが同じ器を使って食卓を囲むことができる

PROFILE
すずき・ゆういちろう 1969年 神奈川県生まれ。東京芸術大学 デザイン科卒。妻の鈴木智子と共にいにま陶房を主宰。主な展示に、東京 南青山spiral内/spiral marketでの企画展、東京 世田谷/IN MY BASKETでの企画展、奈良 高畑町/空櫁での企画展がある。クラフトフェアまつもと、灯しびとの集い、工房からの風など、野外クラフトイベントにも参加。

いにま陶房(匠の聚)
住所:奈良県吉野郡川上村大字東川135
電話番号:0746-53-2660
URL:http://www5.kcn.ne.jp/~inima/index.html

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