純愛の賞味期限は? 恋人たちを真空パックした写真集『雑乱』
フォトグラファーハル 雑乱 #28 Hayaki&Natsuki(部分) © PHOTOGRAPHER HAL

純愛の賞味期限は? 恋人たちを真空パックした写真集『雑乱』

テレビショッピングでもおなじみの布団圧縮袋。掃除機で中の空気を吸引し、かさばる布団を圧縮する便利な収納用品です。この袋の中に、生身の人間を入れて真空パックし、写真を撮り、写真集までつくってしまう写真家がいます。その名はフォトグラファーハル。


愛し合う二人をとにかく密着させたい

 写真家・フォトグラファーハルは、夜の街で出会った男女を撮影した最初の写真集『Pinky&Killer』(2004年・冬青社)の発表以来、一貫してカップルたちの姿を撮り続けています。2009年に刊行した2冊目の写真集『Couple Jam』(冬青社)では、抱き合うカップルを色んな浴室の小さなバスタブに押し込めて撮影しました。そして『Couple Jam』よりもさらにカップルを密着させたのが、布団圧縮袋の中にカップルを入れて真空パックしてしまった『Flesh Love』 (2011年・冬青社)です。

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フォトグラファーハル 雑乱 #05 Koji&Mana(左)雑乱 #02 Hanae&Ryuki(右)© PHOTOGRAPHER HAL

 2014年に刊行した『雑乱』(冬青社)では、カップルだけでなく、二人の趣味のコレクションや、愛する日用品も一緒に圧縮袋で真空パック。宝物をグシャッと詰め込んだオモチャ箱のような、ポップな写真集に仕上げました。

 ひとクセありそうなカップルが多いものの、モデルになっているのはいずれも一般人で、必ずしも美男美女ではなく、体型も様々です。そんな彼らを非現実的なシチュエーションに放り込み、どぎつい色彩と強烈なライティングであおり出したフォトグラファーハルの写真。そこに写っているのは、マスメディアが描くドラマティックで美しいカップル像とも、日々のささやかな幸福(という、これもまたマスメディアの一種の幻想)に包まれたカップル像とも違います。

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フォトグラファーハル 雑乱 #15 Trip&Akemi(左)雑欄 #22 Mika&Daisuke(右)© PHOTOGRAPHER HAL

 二人の思い出の品々に囲まれて、窒息寸前のこのカップルたちを、私たちは微笑ましく見守るべきなのか、嫉妬すべきなのか、はたまた冷やかして良いものなのか......。しかし、撮影者本人の制作意図は至ってシンプル。彼は一連の制作活動を「愛のパワーを視覚化する試み」と語ります。肩すかしを食らったような、自分に気恥ずかしさを覚えるほど、ここに収められた作品には、人が人を愛し、引き合う力がストレートに表現されています。

広告とアート、サラリーマンとアーティストの二足のわらじ

 フォトグラファーハルは、ふだんは会社員として主に広告のグラフィックを撮影しながら、写真家としての制作活動を続けています。作品発表の場は日本国内にとどまらず、これまで海外でも展覧会を開催し写真賞の受賞を果たしました。2014年に六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催された「イメージメーカー展」にも、デイヴィッド・リンチらとともに参加しています。

 2012年には、『Flesh Love』が「PX3 PRIX DE LA PHOTOGRAPHIE PARIS」のPRESS-PERFORMING ARTS部門で銀賞を、ADVERTISING-FASHION部門で銅賞をと、2部門同時受賞。さらに2014年には『雑乱』が同コンペティションのPORTRAITURE-FAMILY部門で銅賞を受賞しました。また、2015年は広告の分野で、世界三大広告賞の一つと言われる「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」の銅賞を受賞しています。

 最近では、アメリカの歌手、サンティ・ゴールドのアルバムジャケットのアートワークを担当し、先日封切りされた映画『森のカフェ』(監督=榎本憲男)の撮影に川口晴彦の名前で挑戦するなど、彼の活動はますます広がっています。そんな彼に、海外から日本にやってくる観光客のカップルから「自分たちも真空パックにして撮影して」とのオファーもあるのだとか。

二人の間にある、永遠の10秒

『Flesh Love』『雑乱』シリーズの撮影は、なんのタネも仕掛けもなく、モデルたちはある意味、命がけです。圧縮袋の内部の空気が抜かれると、当然ながら袋内のモデルたちは呼吸ができません。そのためシャッターを切るのも、わずか10秒という限られた時間内になります。

MM0021_06.jpgフォトグラファーハル 雑乱 #75 Nic&Motoko(左)雑乱 #63 miRo&Kakuya(右)© PHOTOGRAPHER HAL

 フォトグラファーハルは、写真集『雑乱』の中で、二人の身の回りの物を圧縮袋に詰め込む着想について「さらに強い愛を表現する方法は無いか試行錯誤していたときに、一生を終えた星がビックバンを起こしその後収縮してブラックホールになり、あらゆる物を吸い寄せるという話を思い出した」と語っています。

 写真集に写っているカップルたちの中には、撮影後に別れてしまったカップルもいるかも知れません。それでも、真空状態の中でひとつの塊になったその10秒は、二人の交際期間の中で、あるいはこれから先続いていくそれぞれの長い人生の中で、永遠の鮮度を保った思い出になるのではないでしょうか。星の一生に比べれば、ほんの一瞬の出来事であったとしても......。

 なお、現在取り組んでいる新シリーズ「Flesh Love Returns」では、ふたたびカップルのみが圧縮袋の中に入ります。しかし、これまでのように床に寝転ぶのではなく、撮影されるカップルは、二人の大切な場所で立って、あるいは座位の姿勢で真空パックされます。ここでは、特別に新シリーズ「Flesh Love Returns」の一部をご紹介しましょう。

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フォトグラファーハル Flesh Love Returns #18 Eike&Melanie(左)Flesh Love Returns #12 Kohmey&Keiko(右)© PHOTOGRAPHER HAL

 十人十色の恋模様、どう展開するのか、フォトグラファーハルの新作が待ち望まれます。なお、前作「Flesh Love」シリーズは、iPadのアプリにもなっています。Youtubeで公開されている「Flesh Love」のメイキングムービー(提供=Condomania ※閲覧時、年齢確認画面が表示されます。)も、ぜひ写真集とあわせて見てみてください。

Condomania Presents Flesh Love by Photographer Hal
https://youtu.be/veguvtzxokM

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写真集『雑乱』の表紙
フォトグラファーハル『雑乱』
発行元:冬青社
発行日:2014年9月
判型:A4判
ページ数:64ページ(写真59点)
価格:3,500円(税別)
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