現代を映す作品たち アーティストが見たリヨン・ビエンナーレ
街のあちこちにあるリヨン・ビエンナーレの広告

現代を映す作品たち アーティストが見たリヨン・ビエンナーレ

2015年9月10日〜2016年1月3日、フランス・リヨンで開催されている、第13回リヨン・ビエンナーレ。大規模な展覧会のほか、レジデンスプログラムなど、多彩な企画が展開されています。今回は、若手アーティストを対象とした展示「ランデブー15(Rendez-vous15)」に参加しているアーティスト・寺江圭一朗が、リヨン・ビエンナーレの様子をレポート。展覧会所見や、作品の紹介を掲載します。


皮肉めいた風景から考える「現代」

 第13回リヨン・ビエンナーレのメインビジュアルには、ユェン・グァンミンの映像作品《エネルギーの風景(Landscape of energy)》の一部が使われている。手前のビーチでは人々が余暇を楽しんでおり、その奥には原子力発電所が見える。この皮肉めいたワンシーンからは、解決不能に見える世界の諸問題と、実生活との交錯が連想される。今年のテーマは「現代(MODERN)」。何が現代性や現代主義(モダニズム)をつくり出したか、そして歴史を通じて何が現代を支配してきたか、現代の生活について改めて問い直す展覧会となっている。

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ユェン・グァンミン エネルギーの風景 2014  photo by keiichiro terae

 現代の世界に対して芸術には何ができるのか? 現代における「新たな普通」とは? テーマからはそのような問いかけも感じとれる。しかし、私たちは、何を根拠に現代を共有しているのだろう、と考え始めれば、「現代とは何か?」と問い続けるしかない。繰り返される問い自体もまた、現代の芸術の一側面を表しているのではないかと感じた。

多様な企画をコンセプトが束ねる、ビエンナーレの全体像

 リヨン・ビエンナーレでは、毎回ゲストキュレーターを招へいしており、今回は、アートディレクターのチェリー・ラスパイユにより「現代生活(La vie moderne)」というテーマでメインの展覧会が構成された。また、そのほかに3つの展示と2つのプラットフォームが含まれる。

 3つの展示は、チェリー・ラスパイユのキュレーションよる「この素晴らしき現代世界(Ce Fabuleux monde moderne)」、若手作家に焦点をあてた「ランデブー15(Rendez-vous15)」(筆者が参加)、アニッシュ・カプーアによるラ・トゥーレット修道院での展示で、構成されています。

 2つのプラットフォームは、過去のリヨン・ビエンナーレを振り返るような展示やレジデンスなどのプログラム「ヴェドゥータ(Veduta)」と、リヨン市にあるギャラリーなどを中心として展開される200近くのイベント「共鳴(Resonance)」。前者の一部である「現代の再現(copie conforme. . . moderne)」という企画には、杉本博司、竹川宣彰も参加している。

 以上のように、展覧会は5つのパートにわかれ、イベントも数多く開催されているため、自分がビエンナーレにどうかかわっているのか、最初はなかなか理解できなかった。しかし、メイン会場のビジュアルとしてユェン・グァンミンの作品をシンボリックに使うことで、ビエンナーレ全体に共有される「現代(MODERN)」というコンセプトが浮かび上がっている。さまざまな組織が別個の企画を成立させながら、共通するテーマを確固たるものとして示している、なかなか真似できない展覧会のかたちなのではないかと感じた。

「ランデブー15」の出展作品紹介

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「ランデブー15(Randez-vous15)」会場外観 (Institute d`art contemporain)

 筆者は、4つある展覧会のうち、若い世代に焦点をあてた「ランデブー15」へ参加した。この企画は、フランス国内外の若手作家に国際的な活動の機会を与える目的で、2002年にリヨン現代美術館(macLYON)により創設されたもの。リヨンだけでなく、過去に上海や南アフリカ、シンガポールなどでも開催されてきた。今回は、IAC(institut d`art contemporain)という元小学校の建物を会場として、1980年前後に生まれた20名のアーティストによって展覧会が構成されている。

 フランス国内、ダカール(セネガル)、光州(韓国)、イスタンブール(トルコ)、コーチ=ムジリス(インド)、ハバナ(キューバ)、ロサンゼルス(アメリカ)、上海(中国)、シャールジャ(アラブ首長国連邦)、テッサロニキ(ギリシャ)、福岡(日本)などのディレクターが作家をリストアップし、チェリー・ラスパイユらがディレクションを担当した。

「現代(MODERN)」というコンセプトをベースに作家選考が行われ、さまざまな地域における同時代の表現を一堂に見ることができるようになった。ここでは、「ランデブー15」で展示された作品の一部を紹介する。

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左は、ヨハン・リバ《太陽黒点》(2014)。右は、《自由な拳》(2015) photo by Emile Ouroumov

「ランデブー15」のメインビジュアルに使われていた、フランス出身のヨハン・リバのペインティングには、デモやレジスタンスによる動乱の様子が描かれている。リヨン・ビエンナーレの展示のメインビジュアルには、このように直接的なモチーフから現代の世界の問題を捉えようとしている作品が多い。

S8_EMO6905.jpgセリア・ジュニオール 絹織物職人 2015  photo by Emile Ouroumov

 キューバ出身の2人組ユニット、「セリア・ジュニオール」の作品《絹織物職人》。リヨンの名産絹織り、リヨンビエンナーレ、リヨン市とをリサーチにより結びつけ、縫い物によるワークショップで構成した作品だ。彼らは、今年のヴェネチア・ビエンナーレ・キューバ館にも出品中。このように、リサーチをもとに、特定の社会構造を浮かび上がらせるタイプの作品は、ほかの会場でもいくつか見られた。

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ナウフス・ラミレス・フィゲロア 再建される建築  2015  photo by Emile Ouroumov

 36年間の内戦後のグアテマラの建築物が再建されていくプロセスをパフォーマンスにしたナウフス・ラミレス・フィゲロアの映像作品《再建される建築》。グアテマラの建築を模した構造物を身にまとった作者が、音楽とともにくるくる回るダンスをしているうちに、高く積まれた構造体が崩れてくるというもの。作家自身は難民として国外に渡った経験もあるそうだが、そのような経歴を感じさせず、戦中から戦後の人々の営みをユーモラスに表現している。

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ローラ・ゴンザレス サマーキャンプ 2015  photo by Emile Ouroumov

 ローラ・ゴンザレスによる映像作品《サマーキャンプ》。作者自身も映像に登場し役を演じている。同じ意味のやりとりを繰り返したり、役者に委ねる部分を意図的に設けることにより、物語を抽象化させている。特定の意味を持たせることを避けるため、繰り返し違う言葉で語ることを試行しているようにも見えた。

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寺江圭一朗 石とラブレターとテレパシーとコントロール 2015 photo by Magalie Meunier

 筆者・寺江圭一朗が出品した《石とラブレターとテレパシーとコントロール》は、「石がなくなったら大変なことになる」「誰も気がつかない物をつくるのはキツイけど、誰かがつくらないといけない」などと言いながら、石をつくり続けている謎の男を主人公にした映像作品。私たちは、普段は落ちている石に目を留める必要はなく、石がいったいなぜそこにあるのかなど考える必要もない。しかし、石のことさえよく知らない私たちが、世界に起こっていることの何を正しく認識することができるのだろうか。言葉や単語の使い方、認識の仕方自体を変更する必要があるのではないか。そんなことを考えるに至り、この作品を制作した。

これからリヨン・ビエンナーレに行く方へ

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ビエンナーレのカタログ 紙版とデジタル版(※http://www.biennaledelyon.com/より転載)

 作品制作中の画像や動画も見られる、デジタル版のカタログを購入してから見に行くのがオススメ。2016年1月には、完全版のカタログがダウンロード可能になる。(http://www.lespressesdureel.com/ouvrage.php?id=4057&menu=%20www.lespressesdureel.comより購入可能)

 会場を回る際は、地下鉄、バス、タクシーに限らず、レンタルサイクルも便利。自転車があると、イベントの会場になっているギャラリーにも行きやすい。

(寺江圭一朗=文)

第13回リヨン・ビエンナーレ
会期:「la vie moderne」:2015年9月10日~2016年1月3日、「Randez-vous15」2015年9月10日〜11月8日
場所:リヨン現代美術館ほか
URL:http://www.labiennaledelyon.com
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