「今」を更新する音楽家と芸術家が競演! 「上海の夜」を楽しむ
ライブ空間を非日常へと導く中山晃子さんのライブペインティング。音楽と合わさることで、さらなる異世界に観客を連れていく

「今」を更新する音楽家と芸術家が競演! 「上海の夜」を楽しむ

今年の3月に立ち上がった、下北沢の小さなライブカフェバー「CIRCUS」を舞台とするイベント、「上海の夜」をご存知ですか? 100年ほど前に画家レオナール・フジタがパリで主宰し、大盛況をおさめた舞踏会の名前を、タイトルに掲げたこのイベント。「ゆとり世代」の音楽家や多様な芸術家が次々と競演し、ジャズを中心とした新しい音楽の領域を更新し続けているのです。五感に訴えてくるライブ体験は、観客側の日常にまで浸透してくるほど刺激的。本当はちょっと秘密にしたい、特別なこのライブをレポートします。


音楽史の文脈から、アートの必要性を知った。

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目に飛び込んでくるアートワークは中山晃子さん、題字デザインに徳山史典さんを起用

 この「上海の夜」のフライヤーを見てみると、ライブ自体の情報は最小限に抑えられ圧倒的にアートワークと題字のデザインに目を奪われます。「フライヤーのデザインがかっこいいから、どんなイベントなのかと気になった」と思って訪れる客も多く、従来からの音楽ファンに限定されない、デザイナーや映像作家などアートの領域の人々もイベントに呼び込んでいます。アートがライブイベントで起こす化学反応について、イベントの主宰であるサックスプレイヤー・小池直也さんに伺いました。

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サックスプレイヤーとして多様なステージをこなす一方、3つのイベントの主宰者でもある小池直也さん。

──ライブそのものの情報よりも、アートワークや題字が主張するデザインを毎回行っているのにはどうしてでしょうか?

 小池:まず参考にしているのは、バウハウスを生み出した国であるドイツ人を創設者に持つ、「ブルーノート・レコード」の手法です。ブルーノート・レコードが実践したのは「パッケージとして面白い」音楽を世に送り出すこと。音楽も録音もジャケットも良い。総合的かつ細部までに気を遣ったその方法論は、レコードに新しい価値を付加し、「ジャズはクールだ」というイメージの形成に成功しました。ジャズメンとしてブルーノートが辿ったその文脈を汲むのは当然だと思っています。

 ただ、そこに至るまでに自分の中できっかけとなったのは、村上隆さんの著書『芸術起業論』を読んだことです。「現代美術では作品それ自体にではなく、付随するキャプションに価値が発生するんだ」と、そこには書かれていた。自分も過去を学んで、自分が今音楽家として立っているところに流れる文脈を踏まえた上で、作品をつくらなくてはいけないと思っています。

──「過去に形成された価値観がどういう手法でつくられたのか」という視点で考えると、音楽イベントでデザインを前面に押し出すことは当然の流れだったんですね。

 そうですね。特に自分のイベントのビジュアルに関しては、日本の近代ファッション誌のはしりである雑誌『スタイル』の創刊者、宇野千代を卒論で研究したことも転機になっています。『スタイル』を見て驚くのは、画家の東郷青児がカヴァーを担当し、同じく画家である藤田嗣治が題字を担当していたこと。戦前である1936年創刊時の誌面で、カヴァーと題字、それぞれの役割が明確に分かれているということにもインパクトがありました。『スタイル』を知った経験から、題字とアートワークを分けたいとずっと思っていたんです。

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『スタイル』の誌面デザインは現代に見ても個性的で洒落ている

──ひとつの作品を一人のデザイナーで完結させるケースも多いなか、そのような取り組みはおもしろいですね。

 小池:あえてひとりですべてをやらないという、ある種のコラボレーションですよね。ヒップホップもそうなんです。アーティスト名に、フィーチャー(feat.)と書かれているのをよく見かけますよね。自分が作ったビートにラップで乗ってもらって、共演する。違う畑とのコラボレーションで初めて生まれる面白さがあると思います。

──コラボレーションは「上海の夜」において、音楽×タップダンスやライブペインティングのように多様な形で行われています。

 小池:さまざまな活動をしている自分の友人を中心として、「音楽と掛け合わせたらおもしろそうだな」ということをしている人に共演を呼び掛けています。第2回の「上海の夜」に出演したタップダンサーのレオナさんやライブペインティングの中山さんは、もともと知り合いではありませんでしたが、「ぜひ一緒にやりたい」と思い、フェイスブックで連絡を取りました。ふたりとも同年代で、第一線で活躍していることを知っていたので、いつか共演したいと思っていたんです。今は会いたいと思えば連絡できるんですから、いい時代だと思います。同年代で多方面で活躍する人たちが、同じ空間に会して互いに刺激を受けあう、サロンのようなイベントであればいいなと思います。

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森本千絵×黒田征太郎×中村達也×レオナのコラボレーションでも話題になった、タップダンサーのレオナさん

──レオナさんのタップダンスが音楽に対してプリミティブな振動を、それに合わさる中山さんの「アライブペインティング」と呼ばれるパフォーマンスが視覚的な躍動感を、観客に与えていたのが刺激的でした。

 小池:そういったコラボレーションがあるときとそうじゃないときでは、観客から返ってくる反応がガラッと変わってきます。ライブ体験として、視覚から入ってくる情報が全然違ってくるからです。それは演奏者側としても同じで、アートやダンスによって音楽そのものが変化していくこともあれば、アートやダンスが音楽の流れによって変わっていくこともあります。

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演奏者が絵の一部に溶け込む瞬間。中山晃子さんの「アライブペインティング」は音楽と共に瞬きの速さで変化していく

──小池さんを含め、いわゆる「ゆとり世代」の共演によって生まれたこのイベントですが、この世代の可能性についてどう考えていますか?

 小池:「ゆとり世代」について思うのが、個人で突き詰めることのできる環境や方法がインターネットの普及で選択肢が広がった結果、細分化が進んだ、ということです。これはとても良いことなのですが、功罪として「共通の話題」が減ってしまった、という面もある。このままでは、他人を理解するきっかけとなるような「他流試合」みたいな場面は生まれづらくなってしまいます。

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先日行われた第3回の「上海の夜」での一コマ。同年代で、いろんなバックグランドを持つ人たち同士の社交の場としてのイベントでもある

 そんな風に個人主義になってバラバラになってしまったゆとり世代の感覚を、同年代が集まるこのイベントで集めていきたいと考えています。イベントを通しての情報交換や観客と演奏者、アーティストをひっくるめて同年代という接点をそれぞれのフィールドで最大限に活かしていければ。世間一般で言われているような「ゆとり世代」のイメージをここでひっくり返していきたい、というのもイベントの裏テーマになっています。

ともに最先端の、故郷・山梨と、東京

──小池さんは東京と山梨を拠点にして活動していますが、なぜその両都市なのでしょう?

 小池:故郷ということもあって立ち上げた山梨でのイベント「火と風」では、毎回山梨出身のアーティストを県内と県外から一組ずつ集めて開催しています。会場となるのはシャッター街の空きテナントであったり、まったくライブ設備のないカフェだったりする。そんな景色の山梨を僕はダサいと昔は感じていましたが、今では「最先端」だと捉えています。

 ぼくは、日本が滅びるときには新宿や渋谷のシャッターが下りているはずだ、と思っています。だから、山梨はそれを先駆けているんだと解釈できる。つまり、地方都市のシャッター街は、東京とは対極にある「崩壊の最先端」。そこに新しいクリエイティビティやインスピレーションをぶつけるのは当然なんだと考えるようになったんです。

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「上海の夜」と同じく徳山史典さんがデザインしている「火と風」のデザイン

 ただ、これだけだと一種の都落ちだと思われかねませんよね(笑)。「崩壊の最先端」を体現するのであれば、山梨だけでなく、東京が示す「最先端」でも活動していかなければ意味がない。そこで満を持して、東京では散らばってしまっているジャズ感覚(ジャズの要素をもつ音楽)を束ねることをコンセプトに、イベントを立ち上げました。山梨に無いものが東京にあるし、東京に無いものも山梨にはあったりする。その意味で、両都市で活動をしていくことに僕は何の矛盾も感じていません。

その場で起こる化学反応が見逃せない「上海の夜」。次回開催は11月6日!

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映像作家とコラボレーションで魅せるermhoiのパフォーマンス。先日開催された上海の夜にて。

 ゆとり世代の音楽家とアーティストが贈る「上海の夜」は、出演するアーティストも毎回変わる流動的なイベント。コラボレーションによって広がる、音楽やアートの可能性に気づかせてくれるだけではありません。同じ空間に居合わせることで、自然とその場から新しいつながりが生まれていく。能動的でありさえすれば、どんな人にとっても刺激的な時間をプロデュースしてくれます。

「上海の夜♭3」トレーラー

 下北沢のカフェ「CIRCUS」を舞台に繰り広げられる、現代のサロンのようなこのイベント。寓話に出てきそうな、音楽と共鳴する空間そのものは体験必須です!

上海の夜 ♭4
日時:2015年11月6日
時間:
会場:下北沢 CIRCUS(サーカス)
住所:東京都世田谷区北沢1-40-15 北沢ゴルフマンション1F
電話番号:03-6677-5986
予約:Twitterアカウント(@nightinshanghai)または Facebookページ(http://facebook.com/nightinshanghai)にて
CIRCUSではここでしか聴けないライブが日々行われています。10月12日には、2回目となるCIRCUS FESが開催!「上海の夜」に出演したアーティストをはじめ、都内ライブハウスで人気を集めるアーティスト19組が揃う注目のイベントです。
公式サイト:http://circusfes0923.wix.com/circus-fes


小池直也さんのブログ「Too Much Decolation」
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